【書評】「老後に住める家がない!」高齢者が借りられない理由とは?

スポンサーリンク
dav
SPONSORED LINK
スポンサーリンク
SPONSORED LINK

1.「老後に住める家がない!」の著者太田垣章子氏について

「老後に住める家がない!」著者太田垣章子氏はこれまでに2300件もの賃貸トラブルに関する訴訟手続きをこなしてきた司法書士。

多くの案件をこなしてきた著者だからこそ見えてくる高齢者が賃貸トラブルを事例を交えてわかりやすく書かれています。

昔は家制度にあって親の面倒や不動産はその家の長男が引き継ぐことでトラブルを回避できていました。しかし今は高齢者がひとり暮らしするのは当たり前の時代になってきているのに賃貸を借りられない現実。

どうして高齢者が賃貸を借りられないのか?そこには大きな理由がありました。

2.私たちが知らない!高齢者が賃貸を借りられない本当の理由

1.賃貸借契約は相続することで家主の負担を大きくする

家主が高齢者に住宅を貸したくない理由のひとつは孤独死。

なぜなら、借主が亡くなった場合、遺品整理、家財道具の撤去費用や死臭や痕跡の除去の費用は家主負担になることが多いのです。

高齢者の場合、連帯保証人(親族)との縁が切れていたり、かかわりたくないと拒否されれば必然的に家主が負担してしなければ賃貸をふたたび貸し出すことすらできないからです。

例えば1LDKの場合

遺品整理は13万円~

家財道具の撤去費用は6万から10万

が相場ですから20万円以上の負担を家主が負うのであれば今後高齢者を住まわせたくないと思うのは当然のこと。

家主が頭を悩ませるもうひとつの理由は賃貸借契約は相続の対象となることです。

普通賃貸借契約や定期建物賃貸借契約の契約期間中に賃借人が亡くなった場合、賃貸借契約は相続人との間で継続している状況になります。

家主は相続人全員と契約を解約するか、全相続人が相続放棄するかでないと契約を終わらすことはできません。

賃借権(借主の権利)は財産なので相続の対象となるため、借主が亡くなっても家主が家財道具に手を出すことができません。そこで家主が相続人探しに奔走しても個人情報保護法の壁にぶち当たってその先が続かない状況に。

たとえ、相続人を探し当て荷物の処分に同意してくれたとしても、撤去費用まで負担する相続人がほとんどいない状況でこれまた家主の負担となるのです。

2.強制執行の判決が出ても執行されない現実がある

家主が高齢者に住宅を貸したくないもうひとつの理由は滞納です。

賃貸契約をする時に連帯保証人を設定しますが、高齢者は長く住み続けているうちに連帯保証人と疎遠になったり、住所すらわからなくなることも。さらに借主が痴ほうが入ってくれば「払った」「払わない」の押し問答で解決できないとなれば家主は訴訟に踏み切るしかありません。

ところが、そうすんなりと事が運ばないことがあるのです。

問題なのは、仮に訴訟を提起しても「明け渡し」判決をかちとって強制執行を申し立てても、賃借人が高齢者の場合、執行官が執行しれくれないことです。

これは、執行で部屋から追い出された高齢者は行き場を失いホームレスになる恐れがあることから執行官が踏み切れないでいるという。

もちろんすべての場合に当てはまるのではなくケースバイケースで決定するとはいえ、訴訟を起こして判決を勝ち取るまでの家主の時間と労力、それにかかる費用、さらに強制執行もなされないとなると家主の経済的、精神的負担は想像を絶するものがあります。

3.国の制度が普及しない理由

賃貸借契約が相続することが足かせとなって高齢者が住宅が借りられないのならと

国土交通省が「終身建物賃貸借契約制度」を2001年にスタートさせました。

終身建物賃貸借制度は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づき、高齢者単身・夫婦世帯等が終身にわたり安心して賃貸住宅に居住することができる仕組みとして、借家人が生きている限り存続し、死亡時に終了する相続のない一代限りの借家契約を結ぶことができる制度です。                             引用:国土交通省

これは、借主が亡くなっても相続はされず、同居の配偶者や60歳以上の親族は引き続き住むことができる制度です。一見相続されないのなら家主にとっても借主にとってもウィンウィンではないかと思います。

ところが、この制度を利用するには、知事の認可を受け、さらに住居の広さ、バリアフリー化、書類の煩雑さから家主はほとんど利用されていない状況なのです。

2017年には「新たな住宅セーフティネット」制度をスタートさせ、空き室を持つ家主と賃貸を探している高齢者、障がい者、子育て世代をマッチングさせようとしましたが、これも登録には耐震性があることや床面積が25㎡以上が条件が必要でこれがネックとなり、ある調査によると登録している家主は2.9%。登録するかわからない、登録する予定がないを合わせると88.8%でした。

 

「終身建物賃貸借契約制度」や「新たな住宅セーフティネット」は現場にはそぐわない利用しにくい制度であることは確かなのです。利用されない制度は絵に描いた餅でしかありません。

著者は

条件より、高齢者に部屋を貸す家主に対してシンプルに確実に一定額の補助がある、こういったことのほうが「貸そうかな」とおもってもらいやすのでは

といっています。

3.老後の住まいを考える「住活」が必要のでは?

国のデータによると、ひとり暮らしの高齢者で賃貸で暮らしている人は33.5%。3分の1がひとり暮らしの高齢者です。

これから迎える高齢化社会。賃貸に住むことを望む高齢者は増えることは目に見えているにも関わらず賃貸を借りるのが難しいのが現実です。

老後を賃貸で住むのに「困ったら、死んだらお願いしますね」と家主に丸投げでは貸してくれません。であれば、借りる側も家主に信頼してもらえるよう「住活」が必要になってくるのではないでしょうか。

そのためには、頭がクリアな60代の内に賃貸を決める、賃貸料を払い続けられる資産があるか、断捨離をして荷物を少なくする、連帯保証人を決めてコミュニケーションを取っておく、亡くなった場合の対処方法など遺言書に書いておくなどの対策を取ること。

家主との良好な関係のもと老後を過ごすには借りる側もそれなりの準備が求められている時代になってきていると思います。