ひきこもりについてどんなイメージを持っていますか?
私は、働きたくないから親に甘えているだけでしょ。ゲームオタクから次第にひきこもりになったんじゃないのといったイメージをもっていました。
ところが「中高年ひきこもり」を読んでイメージがガラリと変わり、親や本人の甘えや怠慢ではなく取り巻く環境がひきこもりにさせたということを知り、自分がいかに知識を持ち得ていなかったか恥ずかしく思いました。
中高年のひきこもりは厚生労働省の試算では64万人、著者は100万人ではと推測しています。
この数字からひきこもりは、人間の尊厳の問題であり、人的損失、社会保障の損失にもつながっていく大きな社会問題だということがわかります。
ひきこもりの人への誤解と偏見、そして家族の対応方法について研究者として、ひきこもりの人に寄り添ってきた経験をもとにわかりやすく書かれていています。
著書のなかでも特に学びを得たところをご紹介します。
1.著者プロフィール
著者の斎藤環氏は筑波大学医学医療系社会精神保健学の教授で、20年に渡りひきこもり本人や家族について研究している医師です。
ひきこもりの現状や問題点を鋭くあぶり出し提言されている研究者のひとりで、現場で何が起こっているのかを的確に判断し助言する活動をされています。
2.ひきこもりとはどんな人?
厚生労働省では、ひきこもりの人を以下のように定義しています。
仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態
長くひきこもりに携わってきた著者は、ひきこもりの人をこう書いています。
ひきこもりの状態にある人を
たまたま困難な状況にあるまともな人
リストラやパワハラで精神的に傷つけられ場合、客観的にみれば会社や上司が悪いとわかりますが、ひきこもりの人は自分を責めて孤立していき、そして家族との軋轢や近所の視線から孤独とひとり戦っているこという。
人はひとりでは生きていけません。ごく普通の人でも長い人生の中で学校や職場の人間関係に疲れ、わずらわしさから離れひとりになりたいと思うことはあるはず。
しかし、だれでもが困難に立ち向かい自分で解決できるとは限りません。孤立する原因が複雑にからみあい、自立を妨げているとの意味から著者は「たまたま困難な状況にあるまともな人」と表現したのでしょう。
3.親が甘やかすからひきこもりになるのか?
「病気でもないのにひきこもっているなんてきっと親が甘やかしているからよ」はよく耳にするひきこもりの人にいう言葉ですが、ひきこもりになるにはどのような原因があるのでしょうか。
ひきこもりの原因やきっかけとして重要なのは、むしろ学校や職場など家庭外の人間関係です。
二大要因は「友人関係」と「教師との関係」です。「友人関係」はいじめ、「教師のとの関係」はパワハラ、セクハラです。
著者はひきこもりの研究をとおして「いじめPTSD」が極めて多く、トラウマとなり対人恐怖でひきこもりになるのも特徴だそう。
そして、もうひとつ
教師による「指導という名ハラスメント」が学校で日常的に横行していることはあまり知られていません。
体罰よりもことばによるハラスメントが多く、生徒のいじめに加担する先生も。その実態が明らかにならない理由には、学校側が隠そうとし、教師自身も認めようとしないのが原因とのこと。
2021年5月に「教員のわいせつ行為をなくすための法律」が可決・成立しました。
今までは、わいせつ、セクハラ行為で懲戒処分になった教員が免許を失効しても3年経過すれば取得でき現場復帰を可能にしていました。
成立した「教員のわいせつ行為をなくすための法律」では、教員免許を失効した人が再び免許を与えるかは教育委員会が判断することになり、失効した人のデータベースを整備することが盛り込まれています。
ただ、一部では「もっと踏み込んだ具体性のある内容がほしかった」などの意見もあったようです。
4.家族はどう対応したらいいのか?
もし、わが子がひきこもりの状態になったら私たち親がするべきことは
まずは公的機関のひきこもり支援窓口へ相談に行くことです。
ひきこもりの子を持つ親は、世間体を考え第三者への相談が遅れることがあります。
何とかして親子で解決したいと思うのは親の気持ちはよくわかるけれど、専門家に意見に耳を傾けることでひきこもりを長引かせないことにもつながるのでしょう。
厚生労働省では全国に「ひきこもり地域支援センター」を設置し相談を受け付けています。
ひきこもりの子どもを窓口まで連れていくのは困難な場合は、親だけでもアドバイスを受けられるとのこと。
ひきこもりの子をもつ親御さんを食い物にする悪徳業者もいるので見極めるポイントも紹介されています。
5.まとめ
「中高年ひきこもり」を読むきっかになったのは、前にNHKが「ひきこもり」の特集を観て、ひきこもりの実態とその家族の対処法をより深く知りたいと思ったからでした。
#こもりびと|ひきこもりクライシス “100万人”のサバイバル|NHK NEWS WEB
「中高年ひきこもり」から、ごく普通の人があるきっかけからひきこもりになることや、ひきこもりに対するイメージが全く違うものであったことなど、多くの学びを得ることができました。
ひきこもりは決して他人事ではなく、わが子がいつひきこもりになるかもしれない。その時親はどう対処していったらいいのか。子を持つ親にとっての必読書といえる一冊です。
ひきこもりの息子を救う父をリアルに表現 林真理子著「小説8050」もおすすめです。